第六話   とある朝の視線 

その朝、環状線で隣に座った高校生は、徐にカバンからパンを取り出し頬張りだした。
しかも菓子パンの類ではなく、食パンだったから驚いた。

彼女も自分の姿が一応気になるのか、視線を下に落としたり窓に移したりと落ち着かない様子だ。
一回口に含んでは、すぐに食パンを隠しながら「何でもないですよ」という顔をしてもぐもぐしている。
そこまでして彼女が今ここで挙動不審になりながら食パンを食べなければならない事情を、私は察する余地がない。
とりあえず、呆れるよりも憐みを覚えた。


更に彼女はカバンから冊子を取り出して見始めた。どうやら学校の資料集のようだ。
テスト勉強のためか、羞恥心を紛らわすための偽装工作の一環かは………前者ということにしておこう。


しかしえらくカラフルな資料集だなぁ。
脳は水色、肺はピンク、心臓は黄色などなど
全身の臓器が12色色鉛筆では足りないほどのバリエーションで塗られている。
私の体内がこんなお祭り騒ぎだったら、絶対司法解剖されたくないと思った。

…というかこれ、印刷じゃなくて手塗り!?色の指示まで具体的にされてるし。
それにしても、濃緑、緑、薄緑、黄緑って…細かすぎるだろ!そして薄緑と黄緑は一緒じゃないのか!?
色の指示の無茶ぶりに、ついツッコんでしまう。
今時の高校生はこんな勉強をしているんだ…。


何より彼女について特筆すべきは、彼女の持ち物(?)だろう。




…なんだ、この長いのは!?

釣竿か、はたまた長刀か?まさか物干し竿ではあるまいに。


そうこうしている内に、環状線は鶴橋駅についた。
隣の高校生は「すみません」と言いながら、人混みをかき分けていった。結局あの長い物の正体は分からずじまいだった。



そういえば、あの子高校生なのに私服だったなぁ。
もしかして大学生!?……まさかね。

少しの謎と私を乗せて、電車は天王寺へと向かっていった。






他の人から見た、とある朝の私ってこんな感じでしょうか?
と思って書いてみました。